株式会社 未来技術研究所


原子転換
古代・中世の錬金術が、その象徴的・宗教的・文学的意味を除いて全てインチキか妄想であったとかたづけるのは殆んど根拠のないことなのである。
錬金術は畢竟、元素転換の技術であるが、近代化学の始祖であるボイルは元素転換は必ずしも不可能とは考えていなかった。しかしその後、科学者たちは元素転換を示唆するような現象に出会わなかったため、元素不変説が強固な信仰となったにすぎない。この元素不変説は1919年のラザフォードによって覆される。ラザフォードはラジウムから出るアルファ粒子を加速して窒素にあてると窒素の原子核が破壊され、酸素の同位元素に転換することを立証した。原子力兵器と核物理学の黎明である。しかし、核物理学の発達は元素転換が原理的に可能なことを立証したが、これによって古代・中世の錬金術が再評価されたわけではない。それどころか元素転換を行うためには原子レベルでのクローン障壁(原子が融合する力)を打ち破らねばならず、超高温・超高圧下でないと不可能というのが定説となり、フラスコや漏斗しかなかった錬金術師の工房では原子転換などいよいよ不可能であったに違いないという抜きがたい先入観が生まれただけであった。

ところがこのような常識を打ち破る研究が脚光を浴びるに至った。いわゆる常温核融合実験である。1989年3月23日イギリスのフィナンシャル・タイムズはアメリカのユタ大学のスタンリー・ポンズ教授、イギリスのサザンプト大学のマーティン・フライシュマン教授のグループが試験管の中で電気化学的方法によって核融合を起こすことに成功したと報道。このニュースは瞬く間に世界を駆け巡り、追試実験が続々と行われた。ポンズ、フライシュマンの実験が非常にシンプルな重水の電気分解という技法だったことは従来から構想されてきた熱核融合装置の開発には莫大な費用が掛ることもあって世界的に足踏み状態にあるだけにより衝撃的であった。ポンズ、フライシュマンの実験のミソは、電気溶解に重水を使うということ、陰極にパラジウムを使うことの2点である。軽水(普通の水)は水素原子2個と酸素原子1個が結びついたものであるが、重水は水素のかわりに重水素と酸素が結びついたものである。普通の水を電気分解すると陰極に水素ガス、陽極に酸素ガスが発生するが重水を電気分解すると重水素イオンと酸素イオンに分解される。パラジウムは水素吸引元素といわれ、水素をその結晶格子内にどんどん吸い込む性質を持っている。電気分解で陰極のパラジウムに吸引された水素はどんどん過密状態なり、やがてクローン力を乗り越えて重水素の原子核同士が融合反応を起こし三重水素(トリチウム)となる−というのがポンズ・フライシュマン実験の仮説であり実験によって相当の過剰熱が確認された。過剰熱とは通電した熱量を超える熱量の発生であり、核融合反応以外に想定される原因はない。

ポンズ、フライシュマン実験の2年後、ランデル・ミルズとブルガリアのノニンスキーはニッケルの電極で普通の炭酸カルシウム溶液を電気分解すると過剰熱が発生することを報告。この過剰熱はアルカリと水素が核融合し、カルシウムに元素転換されるときに放出されるエネルギーである可能性が指摘された。このミルズの実験は翌年1992年北海道大学触媒科学センターで追試が行われ、陰極にニッケル、陽極に白金をセットし濃度0.5モルの炭酸カリウム溶液20mlを電気分解したところ加えた熱量の3〜4倍の過剰熱が測定されカリウムと水素が核融合反応して生成されると思われるカルシウムが検出されたのである。

ところで、このカリウムからカルシウムへの原子転換についてはフランスのルイ・ケンブランの生体内原子転換説を想起させる。


 
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